事業性評価と本業支援がうまくいっていない金融機関によくある症状 ~ 本部編 ~
今回は、『事業性評価と本業支援がうまくいってない金融機関によくある症状 ~ 本部編 ~』ということで、これまで私が経験してきた事業性評価で感じていたことを紹介します。
『事業性評価うまくいってないんだよね。。。』と言っている金融機関によるある症状、ケース等についてです。
事業性評価を担当しいてる金融機関の皆様の参考になれば幸いです。
なお、『本部』とは、金融機関の本社の管理部門(金融機関によって名称は色々ですが、例えば、審査部、営業推進部等)のことです。
( ※投稿日現在の状況に基づき記載しています。)
はじめに
私は2015年ぐらいから、複数の地方銀行と一緒に事業性評価に取り組んできました。
具体的には、主に以下のようことをやってきました。
- 支店長、支店担当者向けの研修(座学、ワークショップ形式)
- 個々の融資先についてデスクトップベースでの経営課題等やソリューションの仮説(200社以上)
- 個々の融資先について支店担当者等とディスカッションを行い、経営課題等やソリューションの仮説(100社以上)
- 仮説ベースの経営課題等やソリューションに基づき個々の融資先の経営者とディスカッション
- 専門家としてソリューション(経営改善、内部管理体制構築、決算支援等)の提供
300社以上の融資先について、500名以上の行員と事業性評価と本業支援のサポートをしてきました。
その経験から、『事業性評価うまくいってないんだよね。。。』と言っている金融機関に限って、当たり前のことができていないように感じていました。
逆から言えば、それさえクリアできれば、後はやるだけのような気もします。
トップが本気ではない
金融機関のトップ(頭取、代表取締役等)が、本気で事業性評価に取り組む姿勢を示せていない。
これが事業性評価がうまく進んでいない(諸悪の)根源だと思います。
『思っていはいるが示せていない』、ならまだよしとしましょう、『思ってもいない』のはどうしようもないですね。
どの会社でもそうだと思いますが、トップの態度で社内の風土も変わっていきます。
単に、『金融庁がヤレと言っているから』、『ベンチマークを公表しなければいけないから』等の形式的な理由から動いているトップの金融機関は、総じてうまくいっていないです。
いつまでたっても、『過去の一時点の健全性』を重視し、『将来に向けた健全性』に目を向けようとはしないです。
トップの態度が本気でないと、実際に手足となる行員にも本気度が伝わらず、何もかもが中途半端なものになってしまいます。
トップが本気になれば、KPIも設定するだろうし、人事評価にも反映するし、仕組みも作ることができます。
実際に、私が関与していたある地方銀行の本部行員は、いつまでたっても変わらないトップと衝突し、地方銀行を去っていきました。
やはり行員が本気でも、トップが本気でないと、うまくいくものもうまくいきようがありません。
適切なKPIが設定されていない
実際に事業性評価を行うにしても、どこを目指せばよいのか、目標を定量的に示さないと、間違った方向に向かってしまいます。
金融庁の平成29事務年度 金融行政方針(平成29年11月)
「金融仲介機能のベンチマーク」を発展させ、各金融機関の金融仲介(企業の価値向上支援等)を客観的に「見える化」できる統一された定義に基づく比較可能な
共通の指標群(KPI)を策定し、当該KPIも活用しつつ、地域金融機関と深度ある対話を行う。
金融庁によるKPIはまだ公表されていないですが、ベンチマークは公表されているのですから、事業性評価を行いどのベンチマークを目指すのかを行内できちんと決める必要があります。
ベンチマークをKPIにしなくても、事業性評価に取り組んでいる過程を重視し、取り組み件数、経営者とのディスカッション数・提案数等もKPIに設定するものよいと思います。
事業性評価の芽が出るまでには年単位の時間がかかるケースもあるので、過程を重視したKPIを設定するのも重要と感じています(人事評価とも関連しますが)。
私も、事業性評価を経験していて、ソリューション実行までにかなりの時間がかかると感じていました。
通常、私達が提供している財務・会計系のサービスは、困っているお客様の方から、「(例えば)ある会社をM&Aで取得したいのですがどうすればよいでしょうか」と我々に相談にくるのが多いと思います。
しかし、事業性評価においては、現在は経営課題等が顕在化していない融資先に対して、金融機関側から経営課題等を仮説し、「(例えば)内部管理体制の改善をしませんか」と融資先に提案に行かなければなりません。
表現は違いますが、病気になったら医者に行きますが、病気でもないのに医者に行く人はまだ少ないと思います、ましてや医者の方から言われたらなおさら(顕在化の可能性が高ければ別ですが)。
ですので、事業性評価を機会に、融資先のことをよく知り、何かあったらすぐに相談してもらえるようなよい関係を構築できればよいと思います。
そこで、よい仮説を立てて、潜在的な経営課題等を指摘し、経営者に刺さっていれば、経営課題が顕在化しそうになったときには、きっと声を掛けてくれると思います。
人事評価に反映されていない
KPIとも関連してきますが、行員が事業性評価に取り組んでも、それが人事評価に反映されないと、誰も事業性評価に取り組まなくなってしまいます。
(表現が悪いですが)行員もサラリーマンですので、一般的には、評価されることを優先します。
事業性評価が人事評価対象になっていないことはもちろんのこと、事業性評価が人事評価対象に入っていてもそれより評価される取り組みがあれば、事業性評価はうまく進みません。
私が経験した例ですが、事業性評価導入当初は、事業性評価が人事評価対象になっていなかったので、事業性評価よりも投資信託の販売に注力していた金融機関もありました。
『仕組み化』ができていない
これもトップの方針しだいですが、実際に営業店の行員が事業性評価をやろうと思っても、事業性評価の進め方、やり方が『仕組み化』されていないと、動くにもうまく動けないです、動いたとしても、組織的には動けず、個人プレーになってしまいます。
事業性評価のPDCAサイクル構築、仕組み化等、表現は色々だと思いますが、主に以下のような仕組みを準備する必要があります。
- 目標設定
- 対象となる融資先、優先度の高い融資先の選定
- 手引書、ツール等の提供
- 研修、セミナー、勉強会、相談窓口等の提供
- 本部人材の同行訪問
- 外部専門家との連携
- 定期的なモニタリング
- 成功事例の共有
- 評価制度
私は、各営業店では営業店の垣根を越えた情報は取りにくいということを感じていました。
例えば、同じ地域に競合のA社とB社があり、A社には甲支店、B社には乙支店が融資していたとすると、甲支店はB社の情報を取りにくい、ということが何度がありました。
事業性評価をやっている者としては、営業店という枠を越えて、業種、業態、ビジネスモデル、規模等の横グシで融資先を比較して、良し悪しを比べ、そこから何らの課題等を仮説したくなります。
このような情報を本部が各営業店に共有することで、事業性評価も少しはやりやすくなると思います。
融資先の経営者のところに行って、例えば『競合のA社ではこのような取り組みで業績が安定しています』等の話のネタは提供できると思います(守秘義務があるので、例は極端ですが、少なくとも方向性、キッカケにはなると思います)。
まとめ
事業性評価をうまく回すには、実際に動く営業店のみならず、本部の力も重要となります。
本部が土台を作る必要があります。
次回は、営業店編を紹介したいと思います。
最後までお付き合い頂きありがとうございました。