事業性評価と本業支援がうまくいっていない金融機関によくある症状 ~ 支店編 ~

今回も前回に引き続き、事業性評価と本業支援がうまくいっていない金融機関の支店でよくある症状、ケースを紹介していきます。

本部編については前回をご参照ください。

 

今回も、事業性評価に取り組んでいる金融機関の皆様のご参考になれば幸いです。

( ※投稿日現在の状況等に基づき記載しています。)

 

支店長が本気ではない

本部編では、事業性評価等がうまくいっていない(諸悪の)根源を『トップが本気ではない』と紹介しました。

これと同じことが支店でも考えられます。

 

支店のトップは、支店長、支店長が本気でなければ、事業性評価をうまく進めることはできません。

支店長が積極的に動き、リーダーシップを発揮しないと、事業性評価をうまく進めることはできません。

 

支店長が融資先の経営者と積極的に会い、コミュニケーションを多くとることにより、金融機関・支店・支店長と経営者との間に信頼関係が徐々に構築されていきます。

信頼関係ができると、経営者は、単なる借入のことだけでなく、経営全般のお悩みごと等についても支店長に気軽に相談するようになります。

相談を受けた支店長は、銀行内部や外部の力を借りて、経営者のお悩みごとを少しでも解決できるように働きかけ、それが態度になってあらわれ、経営者にも伝わると、信頼関係が強固となります。

こうなると、他行よりも少しぐらい金利が高くても借りてくれるでしょうし、金融機関から提案した融資先の潜在的な経営課題解決のための本業支援についても真剣に話しを聞いてくれるようになります。

やがて支店長の動きは成長意欲のある従業員にも波及してくるので、支店全体に好循環がうまれていきます。

 

私はこれまで複数の地方銀行で事業性評価支援をしてきましたが、積極的に経営者と直接会って、融資以外の話しができる支店長がいる支店が、事業性評価の進捗率が高かった印象があります。

毎回特定の支店の支店長、その支店の行員から、『○○○という悩みをもっている経営者がいるので、ディスカッションをしたいので、ぜひサポートをお願いしたい』とうい連絡を受けていました。

 

これはある地方銀行における話ですが、通常では考えられないような金利で融資案件をバンバンとってくる行員がいました。

よくよくその行員の動き方等を調べてみると、融資先(候補先含む)に行き、まず先に金融機関の商品を売るのではなく、経営者のお悩みを聞き、例えその解決が金融機関の直接的な利益に繋がらなくても、解決のために経営者と一緒に真剣に考え、汗をかき、対応していくことで、経営者との強固な信頼関係を構築していました。

経営者のお悩みの中には、必ず『お金』のことが入っているので、資金が必要となると、自然と経営者はその行員に相談し、日頃から動いてくれている行員が提示する融資条件に文句の一つも言わずに、合意してくれていました。

その行員は何も特別なことをしておらず、貸し手側の論理で動いているのではなく、借り手目線で、事業を知りたい、経営者を知りたい、事業をよくしたい、地域をよくしたい等の思いから経営者と話しをし、動いてるだけでした。

 

現在は、『事業性評価』という言葉が独り歩きしていますが、それは単なるキーワードであって目的でもなく、『事業性評価をやろう』ではなく、お金以外でも経営者の力になりたい、事業をよくしたい、地域活性化に役立ちたい等の思いを行動に移すことにより、結果的にはそれが現在の『事業性評価』になると私は感じています。

 

担当者一人でやっている

本部編の『仕組み化できていない』の支店版として、事業性評価を担当行員一人で行っているという問題点があります。

気軽に相談できる上司、同期、部下もおらず、自分が担当している融資先に一人で行き、ヒアリングを行い、事業性評価シート等をなんとなく作成させて、本部に送って完了しています。

その過程で、行員が何かに行き詰ってしまっても、誰にも相談できず、あやふやのままで終わらせてしまいます。

 

事業性評価で結果がでている金融機関においては、支店においても仕組み化ができています。

支店長のリーダーシップのもとで、例えば、業種、地域、規模等の何らかの基準で融資先を分け、さらにその内部でもチーム編成して、事業性評価を複数人で進めていきます。

マンパワーが足りず実際の経営者ヒアリングを担当行員一人で行うにしても、ヒアリングを行う前には必ず支店で複数人でその融資先の経営課題等について仮説ベースでディスカッションを行い、ヒアリング後も支店で複数人で振り返りと今後についてディスカッションを行います。

 

担当行員一人ではなく、からなず複数人、チームで行うことがポイントです。

 

私たち専門家が事業性評価を行うときは、決して一人ではやりません、一人ではすべてにおいて限界があり、複数人でやったほうがいいアイデア等が生まれるからです。

これは事業性評価以外の仕事でも同じで、複数人でチームアップし、そこでディスカッションを重ねて仮説を立てて動き出します。

チーム内のメンバーで話しが行き詰ってしまった時は、似たような業務の経験のある上司、同期、後輩を同席させて、意見を聞き、ディスカッションを再開させます。

一人での考え等には限界があり、いいものが出にくいと感じています。

 

事業性評価についても同じことが言え、本部できちんと仕組み化し、もちろんそこには柔軟性を持たせた上での支店での動き方等も定めており、支店においてもチーム、組織で事業性評価を行っていくことが重要なポイントになります。

 

 

事業性評価シート等の作成が手段ではなく目的になっている

事業性評価の真の目的を簡単にいうと、『事業性評価により行員一人ひとりがよくなる融資先がよくなる金融機関がよくなる地域経済がよくなる』(順序は特に関係ないです)という好循環を生み出すことだと思います。

しかし実際には、その目的達成のための手段である事業性評価シート、ディスカッションシート、提案書等のツール類の作成に注力し、その目的を見失っている現場を私はいくつも経験してきました。

 

支店担当者は、本部から事業性評価の対象先の指示を受けると、本部に提出しなければならない事業性評価シート等の作成のために、融資先経営者等のヒアリングを行います。

いかにきれいに作るか、いかに時間をかけずに簡単に作るか等を考え、事業性評価シート等を作成することが目的となってしまい、そのためにヒアリングを行ってしまいます。

いつしか、融資先の事業を知りたい、経営者を知りたい、融資先をよくしたい等の真の目的のためにヒアリングを行うことを見失っています。

機械的、形式的にヒアリングを行い、事業性評価シート等を作成し、本部に提出することで完了し、それ以降はまったく融資先の事業等をことを気にもかけません。

 

また、事業性評価を効果的・効率的に行うために、システムに依存し、結果的に行員にノウハウが蓄積されない現場も私はいくつも経験してきました。

システムからヒアリング項目を出力し、それに基づき経営者等にヒアリングを行い(指定してあるヒアリング項目以外は聞かない・聞けない)、支店に戻って入力したヒアリング結果に基づき自動で作成される事業性評価シートやディスカッションシートを本部に送って完了してしまいます。

行員自ら考え経営者等に質問、追加質問することはほとんどなく、システムから指定されたヒアリング項目だけしか質問しない状況です。

 

私は、システムを利用することを反対しているのではなく(むしろ使って効率化したいと考えています)、システムに100%依存し、自ら考えて行動できなくなることを危惧しています。

今でさえ、融資先に行き、満足に経営者と事業の話しができないのに、システムから指定されたヒアリング項目だけ機械的に聞いていたのでは、その状況が改善されるとは考えにくいです。

あくまでシステムはサポートしてくれる道具、目的達成のためのツールであって、それを使いこなすことが目的ではなく、融資先、経営者、事業に関心を持ち、知りたい、よくしたいと自ら思い行動することが重要だと感じています。

 

繰り返しになりますが、事業性評価シート、システム等は事業性評価の目的達成のための単なるツールであって、真の目的達成ためには、融資先、経営者、事業、地域、業界業種等を知りたい、よくしたいという行員一人ひとりの思いが重要だと感じています。

 

まとめ

2回にわたって、事業性評価と本業支援に取り組むにあたっての課題、障害等について紹介してきました。

本部のみが本気になっても、実際に動く支店が本気にならならいとダメだし、またその逆もしかりです。

融資先の事業性評価の前に、まずは自分の事業性評価を行い、うまく進んでいない理由、ボトルネック、課題等を把握し、その解決に向けた行動が必要なのかもしれません。

 

 

最後までお付き合い頂きありがとうございました。